こんにちは、抹茶コーチこと永田です。ポーラスターのクラブアドバイザーとしてご協力いただいています、名城大学大学院総合学術研究科准教授 香村恵介氏に「子どもの運動はなぜ重要?子どもに必要な運動指導とは?」をテーマにご寄稿いただきました。
幼少期の運動について研究されている香村氏に、子ども達にとって日常の運動がどれほど重要で、その運動指導の影響とはどんなものなのか?をエビデンスに基づき、わかりやすく解説していただきました。私たち運動を提供するスポーツクラブの指導者も、そして保護者の皆様にも、日頃の子どもたちへの接し方の基準となるべくアドバイスとなることでしょう。
記事原文は文末にあるPDFファイルでご覧になれます。情報源となります文献につきましては記事原文に記載されています。こちらの原文をもとに永田が転載させていただきました。ぜひ最後までお読みください。
身体活動と座り過ぎの健康に与える影響
2020年、世界保健機関は、世界中で発表された膨大な研究成果を整理し、子どもが「体を動かすこと(身体活動)」と「座り過ぎること」が、子どもの健康にどのような影響があるか発表しました。
その結果、表1にあるように、体力や筋力の発達や肥満の予防といった身体的な発育発達に効果的であることはもちろん、学業成績や記憶力といった認知機能、メンタルヘルスや抑うつ症状の低減といった心理面、そして社会性の発達にも効果があるというエビデンスが確立されました。
また6歳~18歳の子どもを成人まで追跡した21の研究(平均追跡時間:20.8時間)をまとめた報告によると、小児期の体力レベルは成人期まである程度持ち越されることがわかっています。
身体活動も同様に、子ども時代に活発な子どもほど大人になっても体を動かす時間が長いことが明らかになっています。
これらのことから、子ども時代に活発に体を動かすことは、その子の一生の財産になるといっても過言ではありません。
表1.身体活動と座り過ぎが子どもの健康に与える影響(5~17歳)
良い、または悪い影響があるとわかっていること | |
体を動かすこと | 心肺機能(持久力)の向上、筋力の増大、骨の健康、肥満症の予防、心血管代謝の健康、学業成績の向上、うつ病や抑うつ症状の低減、記憶力の向上、実行機能の発達 |
座り過ぎ | 体力の低下、心血管代謝の状態の悪化、睡眠時間の短縮、肥満症、メンタルヘルスの低下、好ましくない向社会行動 |
子どもにはどんな環境が必要なのか?
では、子ども達が活発に体を動かすためには、どのような環境が必要なのでしょうか?近隣の環境、保護者のサポート、テレビの視聴ルールなど、様々な要因が指摘されています。
その中でも、日本が経験した東日本大震災やコロナ禍における調査・研究から、スポーツクラブや運動部活動といった組織化されたスポーツに所属することの重要性が再認識されてきました。
東日本大震災後の2011年7月~9月に、子どもの運動時間と運動部活動の所属状況を調べた研究では、1週間で合計420分以上(1日60分以上)の運動時間がある子どもは、運動部所属群(117人)で74.9%であったのに対し、無所属群(43人)では、わずか2.1%にとどまっていました。
1週間に420分以上の運動時間は、身体活動ガイドラインの世界的な基準となっているレベルです。
また、コロナ禍の中学生の身体活動量を調査した研究では、所得の低い家庭の子どもがより不活発になっていることが明らかとなり、部活動などの課外活動が禁止された環境で、有料のスポーツクラブなどに従事していた所得の高い家庭の子どもは運動の機会が確保できていた可能性が指摘されました。
子どもの運動環境が社会的に制限された状況下で観察されたこれらの結果から、組織化されたスポーツという運動環境が、子どもの運動機会を確保するために役割が大きいことが浮き彫りとなりました。
スポーツクラブに加入したほうが良いのか?
新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)は収まりを見せ始めましたが、「身体不活動(いわゆる運動不足)」のパンデミックが起こっていることが指摘されています。
放課後や休日に仲間と自由に遊べる環境が減ってしまった今日、子ども達の運動やスポーツは習い事として行うのが一般的になっているのかもしれません。笹川スポーツ財団も2021年の全国調査によると、スポーツクラブや運動部への加入率は、未就学児で約4割、小学生3~6年生で約6~7割となっています。
では、スポーツクラブに加入したほうが良いのでしょうか?
私は保護者向けの講演会をさせていただくと、このような質問を受ける時があります。私の答えは、
「経済的な負担が許容できるなら、組織化されたスポーツに入った方が良いと思うけれど、そのクラブの指導者や指導方法による」です。
つまり、スポーツクラブに入ったとしても、その指導方法によっては、子どもが恩恵を受けるどころか、逆に良くない影響を受ける可能性さえあると考えています。
多様な動きを含んだスポーツに楽しみながら取り組む
米国小児科学会のスポーツ医学・フィットネス委員会(Council on Sports Medicine and Fitness)は、子どもが早くから特定スポーツを専門的に行うこと(早期専門化)、そして激しい集中的なトレーニングを行うことに対して警鐘を鳴らしています。
これらの状態が続くと、使い過ぎによる障害、オーバートレーニング、燃え尽き症候群、仲間からの社会的孤立(いつも同じクラブの同じ価値観の人とばかり関わることによる社会的孤立)などに陥るリスクがあると指摘されています。
国際レベルでスポーツをしている選手に対する調査でも、国際レベルの選手の3分の2は、自分の専門種目以外のスポーツ経験を有していることが報告されています。
早期専門化を避け、多様な動きを含んだスポーツに楽しみながら取り組むことは、生涯にわたる健康づくりとトップアスリートになるチャンスの両方にとって重要です。
スポーツ医学・フィットネス委員会から、子どものスポーツ選手、両親、コーチに対するガイダンスが出されていますので、子どもにスポーツをさせる時に意識していただけると良いでしょう。
表2.子どものスポーツに対するスポーツ医学・フィットネス委員会(米国小児学会)の指針
スポーツ選手、両親、コーチに対するガイダンス
- 子どもが楽しみながらスポーツすること。
- 思春期までは複数のスポーツをすること。(子どものケガやストレス、燃え尽き症候群の可能性を減らすことができる。)
- 特定のスポーツに特化する時期を遅らせること。
- 多様なスポーツに取り組み、思春期以降に専門化することで、生涯にわたってスポーツに関わり体力を維持できるだけでなく、場合によってはエリート選手として活躍できる可能性も高まる。
- 子どもが特定のスポーツに特化することを決めた場合、その目標が適切で現実的であるかを判断するために話し合うこと。(子どもの目標なの?両親やコーチの目標なの?)
- 年間を通じて少なくとも3か月間、1か月単位特定のスポーツを休むことで、子どもは体と心の回復を図ることができる。
- 子どもは、特定のスポーツを週に少なくとも1~2日休むことで、ケガの可能性を減らすことができる。
- クラブに入れたら終わりではなく、子どもをよく観察すること。
子どもにとって良い運動指導とは?
最後に、子どもにとって良い運動指導者とはどのような指導者でしょうか?
日本スポーツ協会がまとめている「良い指導者としての観点」は、良いスポーツクラブを選ぶ際にも重要な視点です。表3をチェックリストとして、子どもが加入するスポーツクラブの様子をよく観てください。
保護者がスポーツクラブを選ぶ目が肥えることで、クラブが取捨選択され、良いスポーツクラブが増えていくことが重要だと思います。生涯にわたってスポーツを楽しむ力を持った、心身ともに健康でたくましい子どもが増えることを願っています。
表3.子どもに対する良い運動指導
- ①まずは体を動かす
-
運動をするために来たのに、座って待つ時間が長すぎないか?
- ②多様な動きを経験させる
-
競技スポーツの専門的な動きだけになっていないか?
多様な動きを経験する機会はあるか?
- ③一定の身体活動量と活動強度を確保する
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スポーツの時間の大半は、ある程度の強度の運動をすることが出来ているか?
説明や待ち時間の方が長くないか?
- ④発育発達の個人差に注意する
-
ほかの子と比べて評価するのではなく、その子の成長を見ているか?
生まれ月によって経験やチャンスに差が出ていないか?
- ⑤次々にプログラムを展開する
-
「集中しなさい、まじめにやりなさい」といった声掛けではなく、子どもが自然と集中するような内容になっているか?(ゲーム性のある内容、テンポの良い展開など)
- ⑥できるようになったことを認める
-
肯定的な言葉かけの積み重ねで子どもの有能感を高めようとしているか?
上手にできている子だけを褒めていないか?
- ⑦いつも元気で楽しい雰囲気をつくる
-
指導者の雰囲気やふるまいは適切か?
子どもが委縮するような雰囲気を出していないか?
- ⑧心の発達や社会性の獲得にも配慮する
-
叱る基準は一定か?
叱った後の行動も観て褒めることもしているか?
子どもの心の成長のためにあえて介入せず見守る姿勢はあるか?
- ⑨異年齢交流を積極的に利用する
-
同学年ばかりではなく、いろいろな年齢で交流する機会はあるか?
【寄稿者プロフィール】
香村恵介(Keisuke Komura)
名城大学大学院総合学術研究所 准教授
名城大学農学部教養教育部門体育科研究室 准教授
<研究テーマ>
幼少期の子どもたちが心身ともに健康で運動好きになることを目指して、子どもの体力・運動能力や身体活動量に関連した研究に取り組んでいます。
2022年度大人のマナビバ講師として「幼児期に伸ばしたい主体性!運動あそびの力」をテーマに親子運動あそび指導と保護者勉強会を開催し、ポーラスターには様々なアドバイスをいただいています。